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ホテルとマンションが絶妙に入り交じる「I am Saigon」
ひとともり株式会社代表取締役
長坂純明

「ひとともり」という屋号で建築家としてホテルなどの設計にも数多く携わり、自身の手がける「宿 一灯」の宿主でもある長坂純明さんによるホテル紹介連載。「ライフスタイルホテルとホテルライクな住まいの狭間でホテルをどう設計するか」という視点で、全6回、国内外のホテルに関するコラムを執筆していただきます。4回目は、ホーチミン赴任時代のつながりで出会ったという「I am Saigon」での体験について。

ベトナム・ホーチミンシティー(以下、ホーチミン)に赴任していたせいか、ホーチミンには何度も訪れる機会がある。赴任時代に現地で知り合った建築家の山田さん(アネッタイ代表)とはその後も交友を続けていたのだが、彼の住んでいるマンションは宿泊もできるのだと教えてもらい、早速泊まらせてもらうことにした。街の中心からは少し離れているのだが、閑静とも呼べないホーチミンらしいグチャッとした場所に位置している。

大きな壁に木製の扉があるだけのシンプルな外観は、ここが宿泊施設だとは誰も気づかない顔をしている。扉をあけて建物に入ると、トンネル状の暗い空間の先に、楽園ではないかというプールのある中庭が僕達を迎えてくれる。やはりコントラストが重要だ、やはり嘘のない素材だ、などと色んなロジックが頭をよぎる。

敷地には、このプールを囲むように3棟の建物が建っている。正確ではないが、各々の棟はおそらく5階建てで、それぞれが階段室から2つの部屋に入れる。1階はピロティになっていてそれぞれの棟が繋がっていて、先程のアプローチトンネル、プールサイドリビングダイニング、シェアキッチン、ジムやスタッフルーム、バイク置場などとなっている。ゲストルームなどの各部屋は、このプールの中庭の上部の空間に面していて、街の喧騒から離れ品の良い明るさに守られている。

そして、ここはマンションでありホテルでもある。全部で多分30室くらい。最初の宿泊では、マンションとホテルが棟によって分かれているのかと思っていたが、2度目からはそうでないことがわかった。空いている部屋をホテルとして使っているだけ。


プールサイドのリビングダイニングに居ると、ここの面白さがわかってくる。ここの住人はほとんどが外国人で、誰が住人で誰が旅人かがもはやわからない。ホスト側はオーナー夫婦とスタッフが1人という感じで、住人とゲストが等価に対応されるし、朝食も美味しい。プールサイドにいるとプールで泳ぐ人、食事をする人、ジムで汗を流す人。

そんなに大きくないスペースだけど、住人と旅人がフランクにしゃべったり、お酒を一緒に飲んだり。旅人の僕達も楽しく、おそらく住人も楽しいのではないか。こんなところだったら住んでみたいな。こんなところ日本にあるかな?と思った。


しかし、この絶妙な感じは何なのだろう。肝はオーナーが普段着のお母さんで、ホテリエではなく、大家さんの振る舞いだからなのかもしれない。絶妙なズレが既視感を超え、新しさに至っているのかもしれない。


私はこのような建築を作ってみたいと強く思った。日本では法律の問題で難しい壁はあるかもしれない。ただ、この心地良さを伝えるのも私の仕事だと思っている。

長坂純明
長坂純明
ひとともり株式会社代表取締役
1970年生まれ。「生活のデザイン」を掲げ、奈良町にひとともり奈良本店(一組限定の宿「宿一灯」、ビーガン足湯カフェ「生姜足湯休憩所」、設計事務所「ひとともり一級建築士事務所」)を構える。ひとともり一級設計事務所ではプロダクトデザインや小さな飲食店から300室の海外ホテルなどの大型建築の設計まで、規模や場所を問わず幅広い活動を行なっている。代表作に「香林居(2022)グッドデザイン賞受賞」「中国菜奈良町 枸杞(2022)」「青山の家(2022)」など。