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旅とホテルのミニコラム:ほぼ365日更新中!
9.02
Tue 2025
山田貴仁(studio anettai代表) icon
山田貴仁
studio anettai代表

記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、建築家でstudio anettai代表の山田貴仁による、記憶に残るホテルについて。

スリランカを旅した。目的はもちろん、名建築家ジェフリー・バワの空間を体験することだ。中でも”ヘリタンス・カンダラマ”は世界的にもよく知られている。地形に従い、岩を避け、山肌を一切傷つけないように最大限配慮されたその立ち方は、カンダラマの雄大な自然を尊重するバワの挑戦をそのまま体現しているようだ。


でも今回いちばん驚いたのは、その道中で立ち寄った世界遺産シギリヤ・ロックだった。頂上へ登るための古めかしい鉄の階段の踏み板が、岩肌を傷つけないようどれも歪に切り欠かれていたのだ。1000段を優に超えるであろう1枚1枚が、どれ一つとして同じ形をしていない。当然岩の形状はそれぞれ異なるのだから、その場その場で職人がカットしていったのだろう。そんな気の遠くなるような配慮の跡が、そこかしこにあった。


この名もなき職人たちの自然に対する姿勢は、世界的建築家であるバワの自然に対する挑戦と確かに一致している。その後に訪れたカンダラマ・ホテルの様々な工夫を見つける度に、あの階段で見たこの国の普通の態度と繋がっているように感じられる。設計に携わる者として、とても嬉しくなった。

ヘリタンス・カンダラマのスイミングプール。元々敷地にあった岩肌がプールの底面まで貫入して階段の役割を果たしている

シギリヤ・ロックの鉄骨階段の踏面。岩に沿って切り欠かれている