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旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
映画「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台レオポルツクロン宮殿に泊まる |田才諒哉
2025.10.29
No.067

記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、国際協力クリエイターの田才諒哉による、忘れられないホテルについて。

ザルツブルクと聞けば、まず思い浮かぶのは音楽の都というイメージだろう。モーツァルトの生まれた街であり、夏には世界中から観客を集める音楽祭の舞台。アルプスに抱かれた小さな都市は、中世から大司教領として独自の繁栄を遂げ、今も旧市街の石畳にはその歴史の余韻が漂っている。そんな街の外れ、鏡のように静かな湖のほとりに建つのがレオポルツクロン宮殿だ。

18世紀半ば、大司教レオポルト・アントン・フォン・フィルミアンが自らの威光を示すために建てさせたこの館は、バロック建築の粋を集めた華麗な邸宅だった。迎賓のための広間や精巧な装飾は、ザルツブルクが当時いかに豊かで国際的な文化都市だったかを物語っている。しかし現代の私たちにとって、この宮殿を一気に身近な存在にしたのは、やはり映画『サウンド・オブ・ミュージック』である。


湖畔でトラップ家の子どもたちが歌うシーン、緑の庭を駆け回る姿。スクリーンの中の美しい風景は、そのままレオポルツクロン宮殿の姿だった。世界中の観客は映画を通じてこの建物を知り、ザルツブルクという街を「音楽と物語の都」として記憶することになったのだ。歴史的な宮殿が、一気にポップカルチャーの象徴へと変わった瞬間でもある。


そして何より驚かされるのは、この宮殿に実際に宿泊できるということ。かつて大司教が権力を誇示した空間や、映画の中で家族の物語を彩ったロケ地に、自分が泊まれるなんて。僕はこの宿……あらため、宮殿に4泊した。

宮殿内の部屋に案内されると、まるで歴史と映画の世界に同時に迷い込んでしまったかのようだった。窓を開ければ湖がきらめき、背後にはアルプスの稜線。ベッドに横たわれば、気分はマリア先生か、それとも優雅な大司教か。

ザルツブルクという街が持つ歴史の厚みと、『サウンド・オブ・ミュージック』が与えた夢のような物語。その両方を味わえるのが、レオポルツクロン宮殿の最大の魅力だろう。ここはただの宿泊施設ではなく、「音楽の都ザルツブルクの記憶をそのまま体験できる舞台」だった。

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田才諒哉
田才諒哉
国際協力クリエイター
国連職員など国際協力の仕事で、ザンビア、パラグアイ、スーダン、マラウイ、ラオスなどに駐在。現在はスタートアップで働きながら、世界中のコーヒー産地をめぐっている。ニュージーランドにバリスタ留学経験あり。新潟県出身。
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