記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、国際協力クリエイターの田才諒哉による、旅先での過ごし方について。
旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
ラオス南部の島々シーパンドンで「何もしないこと」をする旅 |田才諒哉
2025.10.30
No.068

ラオスを旅する人々の多くは、ルアンパバーンの古都に憧れを抱き、北へ北へと足を伸ばす。確かに世界遺産にもなっている町の光景は、息をのむほど美しい。だが、ほんの少し旅慣れた者は、流れに逆らうように南へと向かう。そして辿り着くのが、シーパンドン。直訳すると「4000の島」なのだが、本当に4000も島があるかは分からない。いったい誰が数えたのだろうか。メコン川が幾千もの流れに枝分かれし、小さな島々が散らばる、のどかさの極みのような土地だ。
船に揺られて島に上陸すると、時間の進み方がすっかり変わってしまったかのように感じる。舗装されていない道を歩けば、水牛がゆったりと川辺に寝そべり、子どもたちが裸足で走り回っている。観光客の姿も少なく、静けさが島全体を包み込んでいる。メコンの流れはゆるやかで、陽光を反射してきらめくその水面を眺めていると、時計を持つこと自体が無意味に思えてくるので、僕は思い切って腕時計を外した。

小さなゲストハウスのバルコニーに腰を下ろし、ハンモックに身を預けて本を開けば、やがて本よりも川の流れに心を奪われてしまう。遠くでエンジンボートの音が響くのも、すぐに風と一緒に消えていく。夜になれば、星が空を覆い尽くす。都会の喧騒を知る旅人にとっては、この静寂こそが最大の贅沢だろう。
シーパンドンは観光名所というより、「何もしないこと」を楽しむための場所だ。ルアンパバーンの北に歴史と文化の香りがあるなら、ここ南には無為の心地よさがある。旅人たちはそれぞれのラオスを求めるが、ほんの少し通な旅人は、この南の島々を目指す。そこにはガイドブックには載りきらない、メコンの大河に抱かれた穏やかな時間が広がっているのだ。

田才諒哉
国際協力クリエイター
国連職員など国際協力の仕事で、ザンビア、パラグアイ、スーダン、マラウイ、ラオスなどに駐在。現在はスタートアップで働きながら、世界中のコーヒー産地をめぐっている。ニュージーランドにバリスタ留学経験あり。新潟県出身。
何もしないを楽しむ、島のホテル
ゆったりと、奄美の海と森に溶け込んで
