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旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
ボトルの記憶 |角尾舞
2025.09.14
No.047

記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、デザインライターの角尾舞による、旅のB面について。

ものづくりとしての酒が好きである(もちろん、飲むのが一番好きだけれど)。その土地でどのように生まれ、根付いて、人々が工夫をこらし、現在も飲まれているのかという文化そのものが好きだ。


記憶している限り、そのきっかけはスコットランドで出合ったスコッチウイスキーだった。一言にスコッチと言っても、あまりに多種多様な味わいがあることを知り、のめり込んだ。それ以来わたしたち夫婦の趣味は、蒸留所と醸造所を巡り歩くことである。スコットランドのアイラ島やオークニー諸島などのウイスキー蒸留所、メキシコ・オアハカ州近郊のメスカルの産地、イタリア・サルデーニャ島のワイン畑、もちろん日本の酒蔵も。機会があればさまざまな生産地を訪ねてきた。完全な趣味なので記事になることもなく、資格を取るわけでも仕事にいかすわけでもなく。同じ酒でも原料や土地、そして作り手によって味や香りが異なることの面白さを、ただただ個人的に味わってきた。

そのなかでも特に記憶に残っているのは、オアハカで訪ねた「ロス・ダンザンテス」の蒸留所だ。このブランドが「メスカル界のレジェンド」とも呼ばれているらしいことは帰国してから知ったが、自分の背丈と同じくらいのアガベに囲まれた、半屋外の農村のような場所でつくられている光景は美しかった。白い馬が加熱されたアガベを石臼で引いている姿は、目に焼き付いて忘れられない(わたしはそこで「Horse Power Mescal」と書かれたTシャツを購入した)。

子どもが生まれてからは幼児を酒蔵に連れて行くわけにも行かないので、なかなか機会は減ったけれど、旅先から持ち帰った蒸留酒のボトルはまだまだ尽きない。旅の記憶は少しずつあいまいになっているが、たらたらとうんちくを語る人よりも、楽しく飲める人でありたいから、それでいいのかもしれない。

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角尾舞
角尾舞
デザインライター
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、コピーライティングや展覧会の構成等を手がけている。慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、山中俊治のアシスタントを務める。その後、スコットランドに滞在し、17年10月よりフリーランス。
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