記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、国際協力クリエイターの田才諒哉による、旅先での記憶について。
旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
旅人を一瞬でタイへと連れ戻すヤードムの魅力 |田才諒哉
2025.10.31
No.069

タイを旅していると、必ずといっていいほど出会う小さな筒状のアイテムがある。コンビニのレジ横や薬局の棚、バイクタクシーの運転手のポケットからもひょいと出てくるそれは「ヤードム」だ。
キャップを外して鼻に近づけると、スーッと清涼感のある香りが広がる。ミントやハーブの香りが鼻の奥を駆け抜け、頭の中のもやもやや暑さでのけだるさが一瞬で吹き飛ぶ。蒸し暑いバンコクの路地を歩いているときも、長距離バスでぐったりしているときも、この一本でリセットできる。タイ人にとっては日常の延長線上にある小さな癒やしだが、初めて手にした旅行者にとっては、まるで魔法のようだ。
面白いのは、その使い方の自由さ。鼻から吸い込むだけでなく、こめかみにちょんと塗って頭をすっきりさせたり、乗り物酔いのときに嗅いだり、気分転換に友人同士で回し合ったりもする。お隣のラオスでもヤードムは人気なのだが、ラオスで働いていたとき、真面目な会議中に同僚のラオス人が鼻の穴にヤードムを突っ込みながら話す姿を見たときは、さすがに笑いを堪えるのに必死だった。
旅人にとってのヤードムの魅力は、その手軽さと「タイの生活の一部を持ち歩ける」という感覚にある。わずか数十バーツで手に入り、ポケットに忍ばせておくだけで、どこにいてもタイの風を感じられる。旅が終わって帰国したあとも、ふとキャップを外して香りを吸い込めば、バンコクの喧騒やチェンマイのゆったりとした空気がよみがえるのだ。
手のひらサイズのその筒の中には、暑さや疲れを吹き飛ばすだけでなく、旅人を一瞬でタイへと連れ戻す不思議な力が詰まっている。



田才諒哉
国際協力クリエイター
国連職員など国際協力の仕事で、ザンビア、パラグアイ、スーダン、マラウイ、ラオスなどに駐在。現在はスタートアップで働きながら、世界中のコーヒー産地をめぐっている。ニュージーランドにバリスタ留学経験あり。新潟県出身。
香りも楽しむホテル
香りにまでこだわった空間で、五感を研ぎ澄ます宿泊体験
