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旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
冷たいカクテル、あたたかいビール。|成田峻平
2025.10.16
No.062

記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、『RiCE』副編集長の成田峻平による、ホテルのバーについて。

「泊まったことはないけれど好きなホテルネタ」はもうひとつあって、ホテルのバーも愛している。たとえばバタバタとした出張の合間、クラシックな佇まいのホテルで一杯やるのが好き。重厚感あふれる空間に身を浸しながらほろ酔いになれば、少しだけ気持ちに余裕が生まれる。そういえば自分がはじめて一人でバーに行ったのも、ホテルのバーだった。


悔しくも現在は休業中だが、御茶ノ水「山の上ホテル」の[バー・ノンノン]。真隣にある大学に通っていたので登校するたびに気になりつつ、入る機会を逸していた。学生が飲みに行くには敷居が高かったのだ。池波正太郎や川端康成など、様々な文人が通った由緒正しき名バーである。でもここを訪れずに大学は卒業できないなと思っていたので、まさしく大学を去る卒業式の日に、意を決して門を叩いた。

卒業証書授与の瞬間ってアメリカのドラマみたいにロマンチックだと思っていたのだが、その真逆で白けた感じ。期待はずれだなぁ、と思いながら「写ルンです」で撮影。

たしかマティーニを頼んだはずだ。(オリーブをどのタイミングで食べればいいのかとか四苦八苦しながら)、卒業式で浮き立つ同級生たちを横目に、どこか感傷的でハードボイルド気分で飲む一杯は格別に美味しく……なんてことには残念ながらならず、確実にすばらしいカクテルだったはずなのに、激しい緊張で味など全くわからず喉元を過ぎ去っていった。なんとも虚しきアルコール。でも背伸びした分、ちょっぴり大人になれた気がした。


変に格好つけたので、研究室の飲み会(エアビーとかで場所を借りてはしゃぎ散らした)には遅れて合流することになる。プラスチックのカップにお世話になった先生が「お疲れ様」となみなみビールを注いでくれる。近くのコンビニで買ってから数時間が経過した、決して冷えてはいないぬるいビール。優しい味だった。

大人になると「ビールは冷たくなきゃいけない」なんて言い出すけれど、狭量な価値観の大人になるくらいなら何からも卒業なんてしたくない。そんなパンク精神を忘れずにいたいと思いつつ、今年も茹だるような酷暑で、キリッと冷えたビールのことばかり考えていた。

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成田峻平
成田峻平
『RiCE』副編集長
1997年宮城県仙台市生まれ。Media Surf Communicationsを経て、ライスプレス入社。
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