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旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
しおりから始まる|苔
2025.11.14
No.075

記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、クィアギャル見込みの苔による、旅のお供について。

旅先で小説のページをめくる時間はこの上なく格別であるが、旅先で読んだ本の内容をよく覚えていないのは、旅で出会った世界と小説で味わった世界が境目なく混ざりあってしまうからだ。小説というのは、自分の思考を今この場所から別の場所へと連れて行ってくれるという点において旅とそう変わらない。だから旅の途中に小説を読むと、わたしの前にはふたつの物語が現れる。ページにしおりが挟まれることで中断する小説の物語と、ページにしおりを挟むことで再開する旅の物語。旅の中でわたしの思考はふたつの方向へとちぐはぐに流れ込み、時折ゆるやかに混ざり合いながらまたわたしのもとへと戻ってくる。

しおり、と書いたところで、わたしが旅に持っていくしおりは本の栞ともう一つあることに気づいた。旅のしおりである。わたしはグループ旅行の際にときどき、旅のしおりを作る。旅程表、持ち物リスト、おこづかい表、すべてがスマホで完結する時代に、律儀に印刷して持っていくのである。旅を終えてそれ相応のシワや滲みができてしまったしおりは、わたしたちがその場所で風を感じ、急な雨に降られてしまったあの記憶を、形にして残してくれる。同じようなシワや滲みが、一緒に行った友だちのしおりにも残っているのならば嬉しい。たまに、しおりの予定表に背くときもあるが、自分たちが立てた予定を自分たちで破る旅は、予定を立てない旅よりも自由だと感じられるから不思議だ。


調べてみると、「しおり」という言葉が使われるのは、本のしおりと旅のしおり、この二つだけらしい。これまで、その二つに同じ言葉が当てがわれている意味がよくわからなかったけれど、どちらも「案内するもの」だと解釈するのであれば合点がいく。本であればどこまで読んだのか、旅であればどこまで旅程が進んだのか、しおりはそれぞれの案内人となって、次の道を、そして次の物語の方角を指し示す。

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苔
クィアギャル見込み
「今の社会では話せる場所が少ない、けれども私たちにとっては重要なこと」をテーマに、執筆活動やおしゃべりを行う。ブログ執筆や各種媒体への寄稿、Xのスペース「ウチらのサイゼ会」主催。
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あかしゆか
編集者・ライター・本屋店主
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