記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、歌人・伊藤紺による、旅先の偏愛スポットについて。
旅とホテルのミニコラム:ほぼ365日更新中!
愛しのローテク水族館 |伊藤紺
2025.09.07
No.041

出張先の札幌で急に5時間の自由が言い渡された。旅先でしたいことがあまりない人間なので、駅のベンチで動揺しているうちに30分が経ってしまったが、少ない行動レパートリーのひとつに水族館があることを思い出し、速い電車に飛び乗り「おたる水族館」に向かった。
1958年創業。どこか学校を彷彿する雰囲気とあふれるローテク感に胸が踊る。平日だからか館内はかなり空いていて、ひとつひとつの水槽をじっくり眺めることができた。水槽すれすれを行ったり来たりする巨大魚。サービス精神旺盛な4本ひげのサメ。たまに思い出したかのように白菜を一口だけ食べる黄色い唇の魚(白菜の葉が1枚、紐でくくられ、水中に吊るされていた)。小さな管にじっと身を寄せるウツボのような細長い者たち。
ここの魚たちはひとりひとり(いちぎょいちぎょ)性格がはっきりと伝わってくる。いろんな体に、いろんな性格。その自由さとのびやかさに満足して水族館をあとにし、近くの食堂で刺身の盛り合わせを食べた。暑さと移動で疲れた体に、新鮮な貝と、星の瓶ビールが沁みた。




伊藤紺
歌人
1993年生まれ。著書に歌集『気がする朝』(ナナロク社)、『肌に流れる透明な気持ち』、『満ちる腕』(ともに短歌研究社)。
小樽のホテル
おたる水族館に思いを馳せながら海の幸を楽しんで