記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、歌人・伊藤紺による、忘れられない旅のひと皿について。
旅とホテルのミニコラム:ほぼ365日更新中!
夢の“ナシカンダー” |伊藤紺
2025.09.08
No.042

コラムの話をもらってすぐ、“それ”について書こうと思った。10年以上前、マレーシア滞在中に何度も食べた、スパイシーな味付けの肉や魚介類を汁ごとごはんにのせてもらう大衆料理。スパイスの複雑さ・ココナッツのマイルドさ・一口で好きになるパンチの強さを兼ね備えた唯一無二の味。しかし名前がわからない。
はっと思いついてChatGPTに写真を送ってみると「ナシカンダー」という言葉が出てきた。それはペナン発祥のカレー食堂のことだそうで、つまり“それ”はカレーだった。旨いわけだ。言葉も通じない屋台で、「これとこれとこれ」と指をさして何種類もあいがけにしてもらうのだけど、基本的に金額は書いていない。「エビだけすごい高かったらどうしよう」と幾度となくどきどきさせられたが、どの店もにこにこと良心的で、恐れていたようなことは起きなかったので、好きな具材を、うっとり、好きなだけ食べられた。
書いていたら無性に食べたくなってきたので、「ナシカンダー 東京」で検索してみた。2022年にナシカンダー専門店がオープンというニュースと、2023年に休業、2024年に閉業というニュースがスマホの画面に同時に光る。
ナシカンダー、夢の食べ物。




伊藤紺
歌人
1993年生まれ。著書に歌集『気がする朝』(ナナロク社)、『肌に流れる透明な気持ち』、『満ちる腕』(ともに短歌研究社)。
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