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旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
ホテル隣りのレストランは油断を誘う |奈雲政人
2025.10.10
No.060

記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、企画と編集を生業とする奈雲政人による、記憶に残る旅のひと皿について。

同じお店で2回同じもの食べることなんて、旅ではそうない。ベネツィアの滞在中に”Trattoria Bar Pontini”は例外だった。テラスで白ワインと共にペスカトーレを2回、同じ席で食べた記憶が今もまだ不思議と残っている。


ベネツィアへは、芸術祭を目的にしていたこと、観光地なので各所をランニングしながら巡ろうと思ってたことから、なんてことのないホテルを取り、睡眠所使いを予定していた。


やたら冷房の効いたホテルを出てふと目に入ったレストランのテラス席。派手さはないがおばちゃんの接客が気持ちよく、地元の方も通っている空気感を纏っていた。しかし、到着した直後なこともあり、本当にここでお腹を満たしていいのか?自問自答しながらもしっかり食事。判断が問われる。ホテルの隣にあるレストランなんて、つまらない選択なのではないかと...。


しかし食欲にも負け、隣のおじさまが食べていたペスカトーレを注文し、食す。う、うまい。派手さはないが、これを食べたかった、という感じ。少しボリュームが多いのも、ざくっとした盛り付けもよい。


その後2日間、何ヶ所かで食事をするも、いまいちパッとしない。頭に常に、あのペスカトーレがある。最後の昼食も結局また来てしまった。初日と違い、白ワイン1杯で少しほろ酔いになっている自分がいる。旅でお酒に酔うことはあまりないのだが、同じ店に2回来ると、どうやら油断するらしい。なにより、ホテルの隣というのがさらに油断をさせる。気づけば、やたら冷房が効いて寒いホテルのラウンジさえ、なんだか味わい深く感じてくる。


旅先で自分のささやかな居場所を見つけた時、その記憶は強く残る。またベネツィアを訪れる際には、同じホテルに泊り、”Trattoria Bar Pontini”のペスカトーレを食べるだろう。

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奈雲政人
奈雲政人
企画と編集
酒・食・ホテル・工芸・薬・新技術等々、分野に限らずその物の魅力発見と差し出し方、仲間づくりを生業にしています。趣味は酒場呑み歩き。梯子酒は企画力。
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