記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、株式会社水星 ホテル事業部のヤブタコウヘイによる、忘れられない旅先での体験について。
旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
荒波越えた安らぎの味|ヤブタコウヘイ
2025.09.11
No.045

『聖地巡礼』も立派な旅の目的だと思う。
名古屋の駅西銀座商店街に『短歌の聖地』と呼ばれる町中華がある。『平和園』というそのお店の2代目店主の小坂井大輔さんは厨房に立ちながらも2013年に短歌活動を始め、2016年には批評会を店内で開催。その中でお客さんが自由に短歌を書き残せる『短歌ノート』なる文化が生まれ、そして多くの短歌愛好家から『短歌の聖地』と呼ばれるようになったという。かくいう私も、いつか行ってみたい、一首書き残してみたい!と思いを募らせていた一人だった。
昨年縁あって店主の小坂井さんと親交の深い友人に連れられ初めて平和園を訪れた。正直に言うと短歌ノートを目的としていたが、注文した料理、中でも五目あんかけ焼きそばの優しい味に心を奪われてしまった。小坂井さんのルックスや経歴、詠む短歌がどこかアウトローなだけに、より魅力が増して感じられる。
そしてカウンターに積まれた短歌ノートをついに拝借する。何とその日で記念すべき10冊目に突入するとのことで、畏れ多くも新しいノートの1ページ目に短歌を書かせていただくことになった。テーマは自由だが、折角なら先程心が動いた五目あんかけ焼きそばについて、どこかで読んだ餡かけの起源と平和園の味をかけた内容で一首詠むことにした。
船乗りのために生まれた餡掛けは
荒波越えた安らぎの味
書けた短歌を小坂井さんにお見せし、「上手いじゃん!」とお褒めの言葉を頂戴したことで私の『聖地巡礼』は一生の思い出となった。歌人でもない素人の私でも平和園の歴史の一部になれた気がして嬉しかったことは勿論、何より平和園のあの味が地元の人たちの愛や、旅の思い出としてだけでなく、短歌という文化と共に後世に残ることを心から願っている。

ヤブタコウヘイ
株式会社水星 ホテル事業部
京都生まれ、京都在住。HOTEL SHE, や香林居でホテリエとして働く傍ら、podcast『水星移住計画』の配信や4コマ漫画『ホテルシー京都の日報』を連載中。趣味はイラストと短歌制作。
平和園の近くにあるランドマークホテル
名古屋にあるホテル。チェックイン後はぜひ平和園に。