記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、医師/インターネットユーザーの生物群による、忘れられないホテルについて。
旅とホテルのミニコラム:日常に旅の余韻とヒントを。
潮待ち/100年後の家|生物群
2025.12.10
No.085

瀬戸内の港町に建てられて96年が経った家に一人で泊まった。かつて潮待ちの港として栄えた牛窓にあった昭和8年築の建築ストックの民家を活用した宿である。居室が4つあるから、普段は共有スペースにほかの宿泊客もいて交流もできるのだろうけど、初めて泊まったこの夜はたまたま一人だった。
昭和の長い年月、大家族が住んで生活をしていた家に遠くから訪れてたった一人でいて、縁側の安楽椅子に腰掛けて月夜の小さな庭を眺める。キッチンでお茶を淹れて、広いダイニングでゆっくりと飲む。夜に家を抜け出すと歩いてすぐに海があり、海岸で星を見上げることができる。
瀬戸内海は潮の満ち引きによって潮の逆流が起こる。かつてここを訪れ、行き交った人たちがじっと自分の行きたい潮の流れ、風の流れになるまで待っていた「潮待ち」。
チェックインのときに、リノベーションに携わった建築士の方ともお話ができた。この家は船大工とお茶屋、花街に少し関係していた家族が住んできた家だったと言われているとか。リノベーションをするときに、そのおうちの人々が大切にしてきた神棚やお仏壇のあった場所をどう扱うか、譲り受けるときにそのことを話し合うのが大切なコミュニケーションであるとか。
kidoには二度訪れていて、また来月行く予定がある。あと数年で100歳のあの家に会えるだろうか。また潮待ちができるだろうか。

kidoのキッチンとダイニング 縁側から庭を眺められる。キッチンがついている宿が大好き

kidoの居室。違棚と床柱、床の間が残された和室でお布団で眠ることができると嬉しくなる

海まで歩いて行くことができる。牛窓神社へ行く途中の参道から見える瀬戸内海。瀬戸内らしい水平線のうっすらとした島かげがいとしい

牛窓は西瓜の産地。夏に行くと近くの青果店で買うことができる

生物群
医師/インターネットユーザー
東京都に住み、働いている内科医。「川沿い」というPodcastでどこかへ行った話をしています。
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Bluesky:@kmngr
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風待ちの港の宿
潮待ちの港もあれば、風待ちの港もあります
