記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、和菓子作家 / ディレクターの小島直子による、忘れられないホテルについて。
忘れられない一泊はいくつかあるけれど、なかでも「もう二度と経験できないかもしれない」と感じたのが、年の瀬に宿泊した「王ヶ頭ホテル」だった。 美ヶ原の最高峰・王ヶ頭の山頂、標高2000mに佇むそのホテルを訪れたとき、周囲はマイナス15℃の銀世界。どこか異世界に足を踏み入れたような光景が広がり、そして、怖いほどの静寂に包まれていた。
なぜ「二度と経験できない」と思ったのか――。それは、宿泊した日が「快晴」「無風」「極寒」という奇跡のような条件がそろった日だったから。 そんな完璧なコンディションの中で「窓霜(※冷え込みの厳しい早朝などに窓の内側に現れる美しい模様の霜)」と「サンピラー(※日の出や日の入りのときに太陽から垂直に伸びる光の柱のこと)」という、滅多に見られない自然現象を同時に目にすることができた。
運が悪ければ窓の外は真っ白で、景色すら見えないこともあるという。まるで日頃の行いを試されたかのように、最高の一日が用意されていた。さらに、荘厳な樹氷の山々を、暖かいこたつに入って眺めるという、そのギャップもまた、心に深く刻まれた体験となった。
王ヶ頭ホテルの外観。夏は一面に緑が広がりまた違う景色が楽しめる
窓ガラスに現れた美しい氷の結晶の模様「窓霜」
氷の結晶が太陽光を反射して、まるで空から光の柱が降りている様に見える神秘的な現象「サンピラー」