記憶に残るホテルや、旅先での体験、お土産、忘れられない味などなど・・・。旅にまつわるさまざまな思い出をほぼ毎日更新。本日は、和菓子作家 / ディレクターの小島直子による、定番とは一味違う”B面の旅”について。
海外旅行で自由時間ができたとき、私が足を運びたくなるのは、観光地ではなく、その土地に暮らす人々の「日常」が息づく場所。地元の人しか訪れない市場や、素朴な店先。そうした場所には、その国の空気や匂い、そのままの暮らしが溶け込んでいる。
家族で北欧を旅したあるとき、現地に暮らす日本人作家の生活を垣間見るため、家やアトリエを訪ねたことがあった。フィンランド・ヘルシンキでは、テキスタイル作家を訪ね、「ハラッカ島」にある彼女のアトリエを見学させてもらった。桟橋から小さなモーターボートに揺られて辿り着く、小さく静かな島。秋から冬にかけては水面が凍り、彼女はスケートで通勤するという。鳥たちと芸術家がともに暮らす、まるで別世界のような場所。そんな場所で、日々創作を続ける人がいるということに、深く心を打たれた。
別の日には、スウェーデン・ストックホルムに住むガラス作家を訪ねた。地元のスーパーで食材を買い、湖畔でその家族と共にピクニック。その時間の中で、福祉国家と称される国の、きらびやかな表面の裏にある現実にも触れることができた。幸せそうに見える暮らしの中にも、誰にも見せない揺らぎや葛藤がある。そうした「素顔」に触れたとき、自分の中の何かが静かに変わる。
旅をすることで、風景だけでなく「人の暮らし」に出会えたとき、世界の輪郭がくっきりと見えてくる。その国を知るには、そこに生きる人々の暮らしから。ガイドブックにもネットにも載っていない旅の深みは、そんな小さな出会いのなかに、ひっそりと息づいている。
ハラッカ島へ向かう桟橋。その近くに映画「かもめ食堂」のロケ地「カフェ ウルスラ」がある
ハラッカ島。島全体が花園のようだった
作家さんの家族と一緒にピクニック
ストックホルムのとある湖。夏至ということもあり家族連れで溢れていた